米ウォール街の大手金融機関の中にもついに、長く続いた株価上昇にブレーキがかかり、間もなく調整局面が訪れるとの見方が出てきた。
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米銀大手ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)のリサーチ部門インベストメント・インスティテュート(Investment Institute)のシニアストラテジスト、スコット・レン氏は近頃、マーケット・ブレドスが異常に狭まっている(=株価指数の値動きがごく少数の銘柄に左右される)現況に警鐘を鳴らした。
具体的に言えば、S&P500種株価指数の年初来10.6%という驚異的な上昇幅(5月��時点)のうち、パフォーマンス上位5銘柄の寄与率は5分の3近くを占める。5銘柄の平均上昇幅は40.8%にも達するが、残りの銘柄のそれは5%にも満たない。
レン氏は6月20日付の顧客向けレポートで次のように指摘している。
「誰もが分かっているのに誰も話題にしない、眼前の事実に今こそ目を向けようではありませんか。私が言っているのはもちろん、今年のS&P500種指数のリターンの大半を占める少数の銘柄のことです。はっきり言って、ここまでの株価上昇はごく限られた銘柄だけの話です」
トップヘビーな(株価上昇が時価総額の大きな一部の銘柄に集中する)上昇相場は数週間ないし数カ月なら持続できても、その後が続かないとレン氏は懸念する。
「過去の数多くの市場サイクルを検証してみると、マーケット・ブレドスが極端に狭まり、それでも相場が上昇を続けている時は、(多くの場合)いずれ有意なピークに達することが分かります」
オンライン取引ソリューション大手インタラクティブ・ブローカーズ(Interactive Brokers)のフェローストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏も同様の見方だ。
同氏は6月20日付のブログ記事で、投資家が時価総額の大きなテック銘柄にこぞって資金を投じる動きを「株式相場で『ジェンガ』をプレーするようなもの」と表現している。
ジェンガでは、タワー上部のブロックを支える土台の役割を果たす下部のブロックがある程度必要で、プレーが進んで下部のブロックが抜き取られ、上部に積み上がるブロックが一方的に増えるにつれ、タワーは揺らいで不安定になる。
それと同じ仕組みで、市場でもブレドスが狭くなって上部すなわち時価総額の大きな少数の銘柄に資金が集中し、それを支える時価総額の小さな銘柄に資金が回らないトップヘビーな状態になると、不安定度が増していくというわけだ。
ジェンガをプレーしたことのある人なら間違いなく分かることだが、ブロックが高く積み上がって土台の強度を超えると、タワーは大きな音を立てて崩れ落ちてしまう。
レン氏は同じことがS&P500種指数にも当てはまると警告する。
「時価総額の大きいごく少数の銘柄が株価上昇をけん引する足元のトレンドは、株価上昇が終わるまで続くでしょう。トレンドにはいつか終わりがやって来るわけですが、その時が来れば、おそらく事態は一気に進みます。顧客の皆さまには、どうかその時に向けて備えていただきたいのです」
景気減速をきっかけに…
レン氏の分析によれば、過去の相場データを参照する限り、狭いマーケット・ブレドスのまま株価上昇が進んでいくと、最終的には「10%を優(ゆう)に超える」下落にたどり着く。そうなれば、S&P500種指数は4月以来初めて「5000」の大台を割り込むことになる。
「10%は確実に予想できる範囲の下落幅。ここまでの上昇(の勢い)を踏まえれば、特段『大胆な』予測ではありません」
レン氏はそのように大幅な株価下落を予想するものの、中期的には米国株に楽観的なスタンスを崩していない。その主な理由は、2000年前後のドットコムバブルと違って、株価上昇をけん引する銘柄がいずれも高い収益性を備えていることだ。
したがって、2022年10月から続く強気相場が終えんに至り、下落幅が20%に達する可能性はかなり低いというのがレン氏の考え。30%下落の可能性はもっとずっと低いという。
レン氏のマイルドかつ慎重な見方は、ウェルズ・ファーゴのS&P500種指数の予測にも反映されている。
同社の設定した年末目標は「5200」で、足元の水準(6月21日終値は5464)を5%程度下回る水準だ。
また、レン氏の所属するインベストメント・インスティテュートは2025年の年末目標を「5700」としており、言い換えれば、S&P500種指数の今後18カ月間の上昇幅は4%前後にとどまることになる。
足元の相場を見る限り、株価は引き続き上昇に向かうのが最も自然な値動きなのかもしれない。ただ、こうした上昇気流がひとたび止まった時には、その後に急激な株価下落が起きる可能性がある。
短期的には、S&P500種指数の200日移動平均「4840」がロジカルな底値になるとレン氏は予想する。
では、調整局面は具体的にいつやって来るのか。レン氏は今夏を予想するものの、ピンポイントでいつ頃になるのかは読み切れていない。間違いなくブレドスは狭く、バリュエーションは高いものの、肝心の株価は高止まりして下落する気配が感じられない。
レン氏は目下、ユーフォリア(高揚感から生まれる過度な楽観、陶酔感)の兆候を見逃すまいと、投資家センチメントを注視している。
「トレンドを認識し、それに乗り遅れたら投資機会を逸すると考える時、個人投資家たちは飛びつきます。典型的にはそのタイミングが株価上昇のピークになります。そして、その時はすでに(当社の顧客の皆さんは)売り抜けた後です」
レン氏は、ここまで解説してきたマーケット・ブレドスの狭さに加え、景気の減速も懸念する。
同氏は景気後退の可能性については否定的だが、消費支出の鈍化と労働市場の軟化により、今後数四半期は実質GDP(国内総生産)成長率が2%を下回って低迷すると予測する。
ただし、景気の減速が起きても、時価総額の大きな少数の銘柄の値動きに相場が左右される状態に変化はないと、レン氏はブログ記事で指摘している。
企業の業績の伸びも同様で、レン氏は2025会計年度のS&P500種構成銘柄の1株当たり利益(EPS)を260ドルと予測している。これはコンセンサス予想の280ドルを下回る水準だ。
企業業績の見通しについて、レン氏は次のように分析する。
「企業は思わしい業績を得られないでしょう。消費支出の減少、景気の減速、ネガティブな業績予想、それらを受けて株価は少なくともある程度の調整局面が予想されます。
ただし、当社はそのタイミングこそ、押し目買いのタイミングもしくはエントリーポイントだと考えています」
なお、調整局面を経た後の回復局面に向け、押し目買いの推奨される投資先として、レン氏は資本財や素材、エネルギー、ヘルスケア関連の銘柄を強気とする。
そこには、現時点でまだ注目を浴びていない「AI時代の勝ち組」が含まれると同氏は見ており、米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)も同様の見方を最近の顧客向けレポートで提示している。