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これまでのところ、2024年はアメリカ株式市場にとって堅調な1年となっている。S&P500はIT分野の持ち直しと期待の持てそうなインフレデータのおかげで、年初来14%上昇している。またVIX(恐怖指数)は1月から継続的に5%低下しており、これは株価が低ボラティリティな環境下で上昇し続けることを示唆している。
しかし、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)によると、投資家は株価の上昇について不安を見せ始めているという。
6月14日に公開されたメモの中でバンク・オブ・アメリカは、調査チームに過去の強気相場のピークを示す指標をまとめるよう要請する顧客が増えていると述べた。そのため、同行は、最も信頼性が高いと考えられる市場のピークを示す10の指標と、ピーク時に最適な投資戦略をリストアップした。
良いニュースは、ピーク時を示す「指標」の数が過去の市場最高値前の平均7個と��べて、現在はわずか4個だということだ。
市場のピークを判断する10の指標
バンク・オブ・アメリカの米国株と定量戦略の責任者であるサビタ・スブラマニアン(Savita Subramanian)氏が率いるチームは、センチメントと行動、市場評価、マクロ経済的要因に関する指標に注目した。
これまでのところ、消費者信頼感、投資家信頼感、国債の逆イールド、信用状況の引き締まりの4つのシグナルが点灯している。
以下に3つの包括的なカテゴリーと、それぞれの指標を記す。
投資家のセンチメントと行動
投資家のセンチメントと行動の指標は、消費者とウォール街の双方が市場と経済についてどのように感じているかを表している。
全米産業審議会の消費者信頼感指数の上昇は、一貫して強気相場の終わりを示唆しており、これは今年すでに点灯している。この指数は1990年7月以降の市場のピークに先立つ6カ月以内に常に110に達しており、2024年1月には111に達している。
全米産業審議会の消費者信頼感指数が110を超えると市場はピークを迎える。
Bank of America
バンク・オブ・アメリカが全米産業審議会のデータをもとに、今後12カ月間に株価が上昇すると予想する消費者の正味割合から計測する投資家信頼感も、市場のピークを示す指標の1つだ。過去の市場のピークでは、強気の正味割合が20%超となっていた。現在の強気の正味割合は23%で、シグナルが点灯していることになる。
またバンク・オブ・アメリカがセルサイド指数(SSI)で追跡しているセルサイドアナリストによる株式配分の高さは、過去6回の弱気相場のうち3回で先行しているが、現在の市場では認められない。SSIはウォール街のアナリストの株式配分推奨の平均をとって、ウォール街が弱気のときは「売り」のシグナルを、ウォール街が強気のときは「買い」のシグナルを出している。現在のところ、SSIは「中立」となっている。
ウォール街の期待が高くなれば、株価がその期待に反する確率は高まる。そのため、S&P500企業への長期成長見通しは市場のピークの指標となる。過去6回の市場のピークのうち4回、S&Pの長期成長見通しが5年間の平均を1標準偏差以上上回っているのが認められた。だが、期待は比較的抑制されていることから、このシグナルは現在点灯していない。
長期成長見通しの高まりは市場のピークを予兆することが多い。
Bank of America
ITバブル、2008年の金融危機、2022年の弱気相場ではいずれも直前にM&A活動が盛んになっており、市場のピークを示す指標だと考えられている。バンク・オブ・アメリカは過去3カ月のM&A活動の平均が過去10年間の平均を1標準偏差以上上回っていれば、M&A件数の高さが投資家の信頼と成長機会への関心の高さを示していると定義している。だが現在はそれとは異なり、M&A活動は2022年以降減少しており、低水準のままとなっている。
株価のバリュエーション
株価のバリュエーションの上昇も市場のピークを示すが、株価収益率(PER)に関連するバンク・オブ・アメリカのシグナルは現在のところ点灯していない。
過去の歴史を見ても、高い株価収益率とインフレ率は強気相場が終わることを示しており、S&P 500は通常、この株価指数の実績PERと消費者物価指数(CPI)の前年比の合計が10年間の合計平均を1標準偏差上回った後に下落する。現在、S&P500の実績PERは24で、前年比CPIは3.3%であり、合計は27だ。これは平均を0.9標準偏差上回っているが、市場のピークを示唆しているというほどに高いわけではない。
市場のピーク直前には割高株が割安株を上回る。予想PERが高い株は予想PERが低い株をピーク前の6カ月間で最低2.5%リードする。成長株は好調だが、現在の市場においてこのシグナルは点灯していない。
逆イールドと融資基準厳格化という2つのマクロ経済的指標は、今日の市場で点灯している。イールドカーブは2022年7月以降逆転しており、これは歴史的に見ても投資家が経済の健全性について懸念を抱いていることを示している。連邦準備制度理事会(FRB)の上級融資担当者調査によると、銀行は市場のピークの直前に大企業に対する商業的・産業的な融資基準を厳格化する傾向がある。現在、16%の銀行がそうしており、過去の市場のピークの場合の水準を満たしている。
第3のマクロ経済的指標であるバンク・オブ・アメリカの信用ストレス指数(CSI)は点灯していない。CSIは特にボラティリティ、信用アクセス、レバレッジ、信用格付けなどの要素を使って信用状況を測る。市場のピークの6カ月以内に0.25を下回ることが多いが、現在は0.39となっている。
市場がピークを迎えた時の投資戦略
このようにさまざまなシグナルが混在する今日の市場では、投資判断を下すのが難しくなる可能性がある。さて、市場がピークに達したら投資家はどうするべきだろうか。
バンク・オブ・アメリカによると、最適な投資戦略はやはり一番シンプルな行動に行きつくという。すなわち、ホールドし続けるということだ。
バンク・オブ・アメリカは、パニックや恐怖から投資商品を売却してしまうよりも、保有し続ける方がよいと述べている。歴史的に見ても、市場のピーク前後の累積リターンは6カ月ほどで安定し、12カ月に達するまでにプラスへ傾く。つまり、長期間保有していれば損失の可能性は低くなるということだ。
S&P 500の場合は、保有期間が長くなるほどリターンがマイナスになる可能性は低くなる。バンク・オブ・アメリカによると、期間が1日の場合、損失の可能性は46%だが、10年間では損失の可能性はわずか5%だという。