「違反者、乗らなくていい」電動キックボード・Luup代表語る、規制緩和からの1年

Luupの電動キックボードが並んだ写真

都心部では、Luupが提供する電動キックボードを見る機会が非常に多くなっている。

撮影:猪野航大

交通マナーの悪さが指摘されることの多い電動キックボード。

違反をする方には、強い対応をしていく

電動キックボードのシェアリングサービスなどを展開する最大手Luupの岡井大輝代表は、厳しい口調でこう指摘する。

2023年7月1日の改正道路交通法の施行から1年の節目にあたるこの6月末、Luupは改めて安全面に対するアクションプランや着座タイプの新機体「シートボード」を発表。警察との情報連携によって一定の違反が積み重なった利用者のアカウントを凍結する「交通違反点数制度」が全国に順次実装されていることも明かした(東京では1月から試験導入)。

成果と安全面に残された課題について、Luupの岡井代表がBusiness Insider Japanの単独インタビューに応じた。

「マーケティングほぼなし」でも急成長

Luupの岡井大輝代表。

Luupの岡井大輝代表。6月後半、アクションプランなどを発表する記者会見を開催した。

撮影:三ツ村崇志

この1年で、東京の都心部では、Luupの電動キックボードや電動アシスト自転車を目にする機会が格段に増えた。

Luupは業界最大手として、この1年で全国3700ポートから、東京都を中心に全国10都市に8200ポートまで拡大。電動キックボード、電動アシスト自転車はそれぞれ約1万台ずつ、合計で2万台にのぼる。アプリのダウンロード数も300万を超えた。この間、CMや広告といった大掛かりなマーケティングコストはほとんどかけてこなかった。

「この1年は正直、急速に伸びる需要に対して供給をなんとか間に合わせようと努力した1年でした。 もともとそこまでマーケティングに力を入れなくてもある程度は乗ってもらえるだろうとは思っていたんですが、これほど急にグロースするとは思いませんでした」

街中でLuupの車両を見た人がサービスを利用したり、不動産オーナーが設置を希望して連絡をくれたりと、増加する利用者が実質的に広告の役割を果たした。

Luupの電動キックボードと電動自転車が並んだ写真

当初はマンションやオフィスなどにポートを設置するにも、Luupが一定の「家賃」を払う必要があった。最近では、家賃不要で設置を希望する不動産オーナーなども出てきているという。

撮影:三ツ村崇志

今回Luupが公表した「交通違反点数制度」の実装をはじめ、Luupが交通ルールの違反者に対して強く排除の姿勢を見せることができるのは、この旺盛な需要があるからでもある。

「正直、 悪質な違反者から売り上げを上げる必要は本当にない。Luupとしては、悪質な違反者に一切の慈悲を与えず退場させていくことが重要だと思います。

一部の利用者が交通ルールを守らないと、その間に何百人もの人が違反走行を目にすることになります。ご本人(違反者)に事故の危険があることはもちろん、ルールを守って使っているユーザーが気持ちよく利用できなくなってしまう影響もあります」(岡井代表)

「交通違反」はこの1年で急増

特定小型原動機付自転車に関連する交通事故件数・死傷者数の表

特定小型原付きの事故推移。

画像:警察庁

そもそも、この1年で電動キックボードが関係する事故はどの程度増えているのか。

警察庁の報告では、2023年7月〜2024年5までにLuupの電動キックボードなどが分類されている特定小型原動機付自転車(特定小型原付)に関連する事故件数は合計で190件(Luup以外の機体も含む)。警察が確認した事故に限られるとはいえ、ひと月あたりの事故数は規制緩和直後から10〜20件前後で、極端に増えているわけではないように見える。死者数は0人だ。

※編集部注:2023年12月には、長野県で電動キックボードと高速バスが衝突し、利用者が死亡したという報道があった。ただ、該当の電動キックボードは時速20km以上で走行できる車両で、特定小型原付ではない免許が必要なタイプだった。

特定小型原動機付自転車の検挙件数の図

特定小型原動機付自転車の検挙件数の推移。

画像:警察庁

一方、交通違反は急増している。2023年7月には月間405件だった検挙数は、2024年5月には3000件を超えている

違反の内訳は通行区分違反(逆走、左側走行義務違反など)と信号無視といった基本的なルール違反だけで8割を超える。「明らかにダメであること」でさえ守れていない、つまり「故意に違反している」というユーザー心理も見えてくる。これは「自転車のように手軽に乗れる」というフレーズだけが注目されてしまった弊害でもある。

こういった故意の違反にどう対応すべきか。警察と協議しながら実装することになったのが、交通違反点数制度だったという。

交通違反蓄積で30日凍結。再犯で永久凍結

渋谷109前のLuup広告の写真

この4月、渋谷109前に設置されたLuupの広告。交通マナーの悪い利用者に対して厳しい言葉を向ける内容がSNSなどで話題になった。もともと重大な違反をしたユーザーに対するアカウト凍結などの対応は実施していた。

撮影:三ツ村崇志

Luupが今回公表した交通違反点数制度では、警察と情報連携をすることで交通違反をポイント化してアカウントにひもづけ、一定の点数を超えるとアカウントが30日凍結される仕様だ。凍結解除後に再び違反が確認されれば、違反の程度にかかわらずアカウントは永久凍結となる。

警察からLuupへの情報連携は、検挙時に個人情報の受け渡しに関する同意を取ることで実施される。また、Luup側でも独自に違反者を検知する仕組みを取り入れる。当然、検知システムは順次アップデートしていく方針だ。

点数制度の実装にあたっては、岡井代表が会長を務めるマイクロモビリティ推進協議会を通じて警察庁とコミュニケーションを取っており、Luup以外の加盟事業者でも今後共通した仕組みで、違反者への対応が取られる可能性があるという。

ただ、Luupをはじめとした電動キックボードに対しては、事故・検挙「未満」の警察庁の調査からは見えない危険走行に対する批判も根強い。これをどう防ぐのか。

「警察や交通に詳しい東京海上などの先輩企業との連携、あとはユーザーヒアリングで対応していくことになると思います。Luupとしても、アプリやメールを使ってコミュニケーションを取っています」(岡井代表)

ベルリンで道端に放置されるキックボードの写真

海外では日本のようなポートがなく、どこでも自由に乗り降りできるタイプのサービスが多く問題視されている。パリやベルリンなどでは規制強化の動きもある(写真はベルリン)。日本でも急激に違反者などが増えるようなことがあれば、協議会を通じて行政とコミュニケーションを取っていくことになるという。

撮影:三ツ村崇志

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