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- アメリカでは、パタゴニアがカスタマーサービス部門で働く90人のスタッフに対し、7カ所ある「ハブ」のうちのいずれかに移るか、退職するよう伝えた。
- 対象のスタッフは、通知から3日以内に自分の判断を会社に伝えなければならなかった。
- チーム文化を改善し、ビジネスニーズをサポートしようとしていると、同社の広報担当者はBusiness Insiderにコメントした。
サステナブルなアウトドアブランドのパタゴニアは、アメリカの従業員90人に選択肢を与えた —— 金曜日までに引っ越すか会社を辞めるか決めるように、と。
90人はいずれも、パタゴニアでは「カスタマー・エクスペリエンス(CX)」チームとして知られるカスタマーサービス部門で働く従業員だ。電話や問い合わせに対応する仕事で、リモートで働くことができる。
最初の通知は火曜日の朝、テキストと電子メールで届いた。
「午前10時(アメリカ太平洋標準時)から重要なタウンホール・ミーティングを開催します」と電子メールには書かれていた。
「今日は休みという人もいるかと思いますが、時間を作って出席してもらえれば、8時間分のお給料をお支払いします」
30分後、同社幹部のエイミー・ヴェリガン(Amy Velligan)氏とブルース・オールド(Bruce Old)氏が主催した15分間のタウンホール・ミーティングで、スタッフはチームが新しい「ハブ」モデルに移行することを知らされた。
これに伴い、CX部門の従業員は7つの「ハブ」 —— ジョージア州アトランタ、ユタ州ソルトレイクシティ、ネバダ州リノ、テキサス州ダラス、テキサス州オースティン、イリノイ州シカゴ、ペンシルベニア州ピッツバーグ —— のうち、いずれか1つの60マイル(約97キロメートル)圏内に住まなければならなくなった。
スタッフには引っ越しの費用として4000ドル(約64万円)と、有給休暇の追加が提示されている。引っ越しは9月30日までに完了しなければならない。
州を越えて引っ越しをしたくない場合は、会社を辞めなければならない。会社に自分の決断を伝えるまでに与えられた時間は、72時間だった。
「ものすごく冷たいですよね。これら7つの都市圏に住んでいないのなら、そこに引っ越すか、荷物をまとめて出ていけ、と」とCX部門で働く、対象の従業員の1人はBusiness Insiderに語った。
「金曜日までに回答しなければ、彼らはわたしたちが退職パッケージを選択したとみなし、そのプロセスを開始するそうです」
タウンホール・ミーティングの後、人事部との1対1の面談が行われ、その日のうちに会社のノートパソコンや電話へのアクセスが遮断されたという。
Business Insiderの取材に対し、パタゴニアは通知の詳細を認め、アメリカ国内のCX部門のスタッフ255人のうち90人が対象だと述べた。
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「完全にレイオフされた気分です」とあるCX部門のスタッフはBusiness Insiderに語った。
「遅刻は一度もないし、勤務評定も良い評価しか受けたことがありません」
その上で、退職パッケージは手厚かったけれど、自分たちが信じてきた会社が「ウォルマート・レベルに落ちる」のを見るのは悲しいと付け加えた。
Business Insiderの取材に応じた従業員はふたりとも退職パッケージを受け入れたと言い、転居を考えた同僚はいなかったと話している。
パタゴニアの広報担当は、複数の従業員が転居の意向を示しているとBusiness Insiderに語った。
その上で、CX部門の従業員の間ではつながりが断ち切られている感覚が共通の不満だったと言い、「これらの変化は活気あるチーム文化を構築するために極めて重要です」と説明した。
同社は、少なくとも6週間に1回は「ハブ」にスタッフを集め、対面式のトレーニングや集まり、アクティビズム・アワーなどを開催したいと考えているという。
「ハブ」
パタゴニアは「既存のコミュニティーや店舗のある場所」をもとに7つの「ハブ」を選んだという。
ブランドのアイデンティティの中核で、ベンチュラには本社があり、店舗とアウトレットも7つあるカリフォルニア州は選ばれなかった。
Business Insiderの取材に応じた従業員はふたりとも、これはパタゴニアが生活費の高い州に住む従業員の高まる要求に応じたくないからだと考えている。
「わたしたちは長い間、昇給を求めてきましたが、賃金は(ネバダ州)リノの生活費に基づくもので、どこに住むかはあなたたち次第だと言われ続けてきました」
一方、パタゴニアの広報担当は「残念ながら、カリフォルニアを拠点とするハブはわたしたちが設定した持続可能なCXモデルの基準に合いませんでした」と話していて、今回の決定に生活費やその他のビジネスニーズが影響したことを認めた。
「CXチームは今年に入ってからずっと、200~300%の人員超過で運営されているのが現実です」
「人員の自然減によって必要な人員レベルに達することを期待していましたが、その数字は非常に低く、定着率は高いままでした」
「羊の皮をかぶった大企業」
ロッククライマーのイヴォン・シュイナード氏が1973年に創業したパタゴニアは、Axios-Harrisの調査によると、2023年の時点でアメリカで最も信頼できる企業と見なされていた。
イヴォン・シュイナード氏。
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ジョーク交じりに「パタグッチ」と呼ばれることもあるパタゴニアは、スタイルにこだわるテック業界の人間や登山家たちがこぞって身に付ける"定番"となった。
いまや数十億ドル規模の企業となった同社は、持続可能性に焦点を当て、より倫理的な資本主義を発展させる取り組みで愛されている。
「社員をサーフィンに行かせよう(Let my people go surfing)」というのが、シュイナード氏の職場環境に対する鷹揚とした考え方だった。
2022年、シュイナード氏はパタゴニアを信託と非営利団体に譲渡し、その利益を気候危機との戦いに向けるという前例のない措置をとった。
「『上場する(go public)』のではなく、わたしたちは『目的のために行動する(go purpose)』のです」とシュイナード氏は当時、書いていた。
2022年9月以降、パタゴニアは慈善事業に7100万ドル以上の収益を寄付してきたと、ニューヨーク・タイムズは2024年1月に報じている。
今回のリストラについて、「たわごとばかり。会社は社員でなく、世界のためにお金を使いたいんです」とあるスタッフは話している。
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「マザーアース(Mother Earth)に売却されてから、会社はものすごく変わったと思います」とCX部門のスタッフも話している。
「イヴォンが会社を離れてから、従業員への思いやりが徐々に失われています」
その上で、出勤をめぐるルールは厳格化され、2023年には会社から予算オーバーだと言われたとこの従業員は続けた。
「パタゴニアはもうニッチな、小さなアウトドア用品の会社ではなく、羊の皮をかぶった大企業です。今も良い製品を作っているとは思いますが、会社が主張するほど従業員を大切に扱ってはいないと思います」