平均年収2000万円「台湾で最も裕福な地区」に半導体産業の活況くっきり。台湾のシリコンバレー「新竹サイエンスパーク」とは


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新竹サイエンスパーク

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台湾で最も裕福な都市は? こう聞かれれば多くの人は事実上の「首都」にあたる台北市を思い浮かべるかもしれない。が、それは過去の話。先端半導体技術で世界のトップランナーとなっている現在の台湾においては、台湾版シリコンバレーの異名を持つ「新竹サイエンスパーク」(新竹科学園区)を中心に、台湾北西部の新竹市、およびその郊外の新竹県が平均年収で突出していることが台湾の財政部(財務省に相当)の発表で明らかになった。

台湾の財政部がこのほど発表した2022年の所得税に関連する統計資料によると、台湾で最も裕福な地区は、台湾北西部の新竹市東区の関新里で、世帯平均年収は461万1000台湾元(約2283万円)にのぼるという。東区はまさに新竹サイエンスパークのお膝元だ。2021年の平均世帯年収は374万2000台湾元(約1850万円)だったため、前年比23.2%増で、初めて400万台湾元(約1980万円)を突破。5年連続で、台湾全土における最も裕福な地区となった。

この地区裕福度ランキング上位5地区のうち4地区が新竹市(人口約45万人)とその郊外の新竹県(約56万人)内にあり、専門家らは「2022年は半導体需要が世界的に大きくなり、注文が殺到したことで収益も増加。新竹シリコンバレーの人々の財布も膨れ上がった」と分析。AIブームの波に乗り、今後さらなる上昇も推測されている。

財政部統計によると2022年に所得税申告した調査対象の世帯総数は約663万世帯で、このうち新竹市全体の平均世帯年収は2021年の152万台湾元(約753万円)から14.8%増の174万5000台湾元(約864万円)となり、台湾全土の平均世帯年収が110万3000台湾元(約546万円)というなか、やはり5年連続で台湾一の富裕自治体となった。

これに次いで新竹市郊外の新竹県全体も2021年に台北市(約251万人)を抜き去り、2022年の平均世帯収入は159万3000台湾元(約789万円)で、自治体比較で第2位。対して第3位となっている台北市の2022年の平均世帯年収は147万1000台湾元(約728万円)だった。

逆にワースト3は台湾東南部・台東県(約21万7000人)の83万4000台湾元(約413万円)、中央部・南投県(約49万5000人)の84万2000台湾元(約417万円)、最南部・屛東県(約82万2000人)の85万3000台湾元(約422万円)だった。

地区ランキングにおけるTOP5のうち、全土で首位だった上記新竹市東区関新里以外の平均世帯年収をみてみると、第2位の新竹市北区大同里は388万7000台湾元(約1923万円)、第3位の新竹県竹北市中興里は347万5000台湾元(約1719万円)。

一方2021年に2位だった台北市士林区永福里は、2022年は342万5000台湾元(約1694万円)で4位に転落。5位は新竹県竹北市東平里で336万元(約1663万円)だった。

データ合計をデータ個数で割って得られるこれら平均値に対し、より実態を推測しやすいよう、データを大きさ順に並べ替えた際に順番が真ん中になる値・中央値でみた場合はどうか。

その場合も、やはり新竹市東区関新里の平均世帯年収が354万3000台湾元(約1753万円)で5年連続首位。新竹市東区龍山里がこれに次ぐ2位で249万1000台湾元(約1232万円)。3位は新竹県竹北市東平里で240万6000台湾元(約1190万円)。4位は新竹市東区埔頂里の214万台湾元(約1059万円)、5位は新竹県竹北市鹿場里で202万7000元(1003万円)だった。

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新竹サイエンスパークのTSMC本社

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日本の厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、日本の世帯年収平均は545万7000円(中央値423万円)。これと比較すると、先端半導体技術を抱える台湾の勢いをまざまざと実感させられる数字だが、台湾の有力紙「中国時報」(2024年7月1日付)の報道によると、関新里の里長(町会長)は、「数字上は確かにそうだがこの地区が台湾全土で最も裕福だとの実感はない」と話している。

同里長は、

「ここに古いコミュニティはなく、新竹シリコンバレーで働く人々が新築のマンションに住んでおり、ここ2年のAIブームのおかげで給与があがったためだろう。だが、みんな収入相応の激務に耐える勤め人であり、中・高級管理職。生活は質素で、贅沢なふるまいは見られない。車もテスラなどで、マセラティやベントレーのような高級車を所有するわけでもなく、むしろ次世代への投資に熱心で、子供を英語塾に通わせるために1万元(5万円)~3万元(15万円)の月謝を喜んで払っているのが実態」

だという。

また新竹市議のひとりは、「関新里の住民は収入も納税額も高いが、地区には学校の不足や交通渋滞といった問題もあり、収入に見合った生活の質がともなっているとはいいがたい」とも指摘。 住宅価格も高止まりしており、過去3年間の平均住宅価格の推移によると、今年の新竹市の住宅物件は坪(3.3平方メートル)35万1000台湾元(約174万円)で、2022年の27万9000台湾元(約138万円)に比べ25.8%上昇。近隣でも場所によっては坪80万元(約396万円)というところも。

ちなみに地区ランキング4位の台北市士林区永福里は、財界、金融界の大物らが多数住居を構えている高級住宅街で知られているものの、その平均世帯年収の中央値は73万8000元(365万円)だ。上記のような新竹一帯の住宅価格は新竹サイエンスパーク周辺住民の給与、購買力の高さをうかがわせるデータだといえるが、産業の成長のスピードに地元インフラ整備などが追い付いていないかっこうだ。

その点においては、新竹サイエンスパークに本社を置くTSMC( 台湾積体電路製造)の熊本工場の開所に沸き立つ熊本県菊陽町でも、同様の問題解決が、本家との共通課題となりそうだ。

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