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- 1992年の時点で57歳だったアメリカ合衆国におけるミリオネアの平均年齢は、2022年には61歳に上昇していた。
- 若い労働者は富を蓄えるのに苦労していて、相続への依存がますます強まっている。
- ベビーブーム世代の人々の貯蓄が、個人消費や住宅などの経済要因に影響をおよぼしている。
高齢ミリオネアの時代へようこそ。
貯金や資産を築くには、時間が非常に重要な要因だ。だが、過去30年、米国におけるミリオネアの平均年齢は、国民全体における平均年齢よりも速く上昇している。
このような高齢ミリオネアの時代、若い労働者は以前ほどのスピードで富を蓄えられなくなっている。その結果、富を築く方法として遺産相続が重みを増すのだ。
「複数世代にわたる富の継承は、そ���自体はすばらしいことだが、富を継承できなかった最初の世代の人々が貯蓄の軌道に乗るのはどんどん難しくなっている」。左派系の政策研究所で不平等プログラムのリーダーを務め、「Inequality.org」の共同編集者でもあるチャック・コリンズ氏はそう指摘する。
みずからの努力で事業を成功させてビッグになるというアメリカンドリームにとっては、悪い知らせだ。『フォーブス(Forbes)』によると、最新の長者番付に載る人々の3分の1が、その富の全額もしくは大半を相続によって手に入れた。2001年のランキングでは、リストに載った490人の億万長者のうち、相続を通じて富をなしたのはわずか5人に過ぎなかった。多くの場合、相続で富を得るのは人生のかなり後半になってからだ。
「ミリオネアは高齢化が進み、彼らはその富を次の世代に譲り渡さないか、譲るとしても人生の晩年になってからだ」とコリンズ氏は指摘する。「そのため、相続人もすでに高齢である」
これらの要因が組み合わさることで、80代の人々の手に富が集まりつつある。これは経済にとって大きな問題になる恐れがある。また、この変化で社会にどのような影響が出るかを、みずからの目では見ることのできない人々に、経済力が集中することを意味する。
ミリオネアの変化
1992年以降、米国内のミリオネアの平均年齢は上がり続けている。われわれは、2022年の純資産が100万ドル(約1億6000万円、1ドル=160円換算:以下同)以上のアメリカ人に関する消費者金融調査のデータを確認し、1992年とデータがある最新の年である2022年のデータを比較した。
1992年、ミリオネアの平均年齢は57歳だった。2022年時点では61歳に上昇していた。平均年齢が上がるというのは、若い世代の人々が富を蓄積するスピードが遅くなっているということだ。
人口の高齢化も関係している。結局のところ、米国では高齢化が進んでおり、高齢アメリカ人にかつてないほどの力が集まっている。ミリオネアがほかの人口とどう重なっているかを知るために、1992年と2022年の年齢層の内訳も調べた。
下は、1992年における一般の人口比率とミリオネアのそれを示している。ミリオネアは50代で一般人口を大きく上回る。40代ではどちらのグループも同等の比率になる。
2022年になると、60代以上でミリオネアの比率がさらに高まっている。
純資産が100万ドルを超えるミリオネアだけでなく、年収が100万ドルを超える米国人も高齢化しつつある。
タックス・ファウンデーションの上級政策アナリストであるギャレット・ワトソン氏が国税庁の所得統計を分析したところ、66歳以上の米国人で100万ドルを超える年収を報告していたのは約5万9500人だったが、2021年にはそれがほぼ4倍に増え、21万8500人弱になっていた。
収入が100万ドルを超える申告者の絶対数
「われわれはそうした人々、つまり高収入を得ている高齢者から、もしくは多くの場合で収入も高く、加えて豊富な純資産を有している高齢者から、かなりの税収を得ている。それ自体はいいことだ。これは明らかに税制の進歩性を強調している」。ワトソン氏はそう指摘する。「同時に、われわれの財政システムにはそうした人々に利益をもたらす規定がたくさんある」
高齢のミリオネアが増えるとどうなる?
若い米国人はお先が真っ暗、というわけではない。パンデミックに対抗する景気刺激策に加え、前例のないほど好調な労働市場や、不動産および株式の高騰が相まって、2019年から2023年にかけて所得層に関係なくミレニアル世代の富は倍増した。Business Insiderの分析では、ミリオネアの9.8%が35歳から44歳に含まれる。30代もしくは40代でも、かなりの割合がミリオネアとしてのステータスを主張できるのである。一方、ミリオネアの19%が45歳から54歳である。
ただし、2022年時点におけるミレニアル世代の平均純資産は約12万8000ドル(約2048万円)に過ぎず、2019年におけるベビーブーム世代の人々の約120万ドル(約1億9200万円)には遠くおよばない。また、ミレニアル世代の多くは経済的な安全を感じていない。住宅費が高騰し、学生ローンも残っているからだ。
X世代も、X世代特有の経済問題に対処しなければならない。彼らはあらゆる世代のなかで、最も多くの負債を抱えていて、住居にお金の大半を費やす傾向が強い。X世代は、退職後の生活費をみずから工面しなければならないうえ、社会保障も減額されるという、2重の意味での老後危機に立ち向かわなければならなくなる最初の世代でもある。またどちらの世代も、生産性の向上に見合うほどの賃金の上昇を得られなかった。
高齢者に富が集中することで、個人消費、雇用、住宅などに、さまざまな影響が生じる。
2022年時点で、ベビーブーム世代が米国における総純資産の半分を専有し、全支出の22%を支えていた事実が、労働省が9月に行なった消費者支出調査を通じて明らかになった。
貯蓄率が低下し、インフレ率が依然として高止まりしているにもかかわらず、高齢者の資産が個人消費を支えている。また、彼らの富は労働市場にも影響する。ベビーブーム世代の人々を対象とした仕事が増えているのだ。
「すでにリタイアした、あるいは今後リタイアする高齢者のおかげで、航空輸送、ホテルやモーテル、食品、医療ケアサービスなどに対する支出が記録的な増加を示している」と、ベテランの市場アナリストであるエド・ヤルデニ氏が今年の初めに書いている。「高齢者が旅行や外食、あるいは医療機関を利用することが増えているからだ。その結果、そうした業界における給料も記録的な高水準を維持している」
ベビーブーム世代は旅行だけを楽しんでいるわけではない。彼らは規模も価値も最大級の資産を有している。大きな家だ。
ベビーブーム世代の人々が増え続けると、彼らが大きな住宅を維持することになり、若い家族に対する住宅供給が制限される。Redfinが国勢調査データを分析した結果、全米のベッドルームが3つ以上ある住宅の28%が、子がすでにひとり立ちした60歳から78歳の人々によって所有されていることが明らかになった。同じ大きさの家を所有している子育て中ミレニアル世代の割合はその半分でしかない。
最後に、ミリオネアが高齢化した時代は、政策研究所のコリンズ氏が「キング・チャールズ効果」と呼ぶ現象が生じる可能性がある。73歳でイギリス王位を継承したチャールズ3世のことだ。
「60歳が30歳に相続するのではなく、90歳が60歳に譲る。豊かな人々が富を長く維持するため、多くの人にとっては、いわゆる世代間における富の継承が人生の晩年で行なわれることになる」とコリンズ氏は指摘する。
「20代で数百万ドルを譲り受けるのと、60代で受け取るのとはまったく違う。60代だと、それまでの人生ですでに数多くの決断をしてきたのだから」