東京を離れて気がついた「良さ」はたくさんある。
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ベルギーに住んで1年半。何度か日本に帰国しているが、円安の影響もあり、当初抱いていた予想より、ヨーロッパの生活は過酷だった。
どこの国にも良いところや悪いところがある。日本を離れてベルギーに住むことで、改めて東京の良さを��見したことも多い。今回は、日本に住んでいると忘れがちな、東京の良さを紹介してみたい。
理由1……タバコ臭くない
まず、ベルギーに来て真っ先に気になったのは喫煙だ。東京では公共の場でタバコの吸い殻を捨てないことや、指定された場所以外で喫煙をしないことなどが定められていたし、マナーとして当然のように皆が守っていた。
私は非喫煙者であり、タバコの煙が非常に苦手だ。他人の煙を吸うことで、自分の健康が害されることに怒りすら覚えていた。だからこそ、日本で分煙が進んでいったのを非常に嬉しく感じていた。
ヨーロッパといえば、環境問題や健康への意識が高いと思っていただけに、ベルギーで当然のように「歩きたばこ」をする人をみて驚いた。駅などでもお構いなしに吸っており、分煙などされていないのが現実だった。
理由2……マスクをしても目立たない
東京ではマスク姿は、普通の光景だが…。
撮影:今村拓馬
ベルギーに限らず、欧州では他人のことを気にしない傾向が強い。いろいろな人種の人が多く、出身地もさまざまなので、半袖の人もいれば、夏なのにコートを羽織っている人もいる。
しかし、「マスク」と「傘」は気を付けたい。
まず、もともと顔を隠すという行為を欧州の人は嫌う傾向があるので、日本のように花粉が飛んでも、マスクはつけづらい。マスクをしていると、重病人かのような目でみられ、心なしか避けられるのだ。
風邪をひいても、花粉が舞っていても、こちらのひとはマスクをしないが、アレルギーをもっている人間からするとかなり辛い時期を過ごすことになる。
また傘は「観光客である」ことをさらすことになる。小雨どころか、普通に雨が降っていてもベルギー人は傘をささない。フードをかぶって過ごす。
私は折り畳み傘を常に持ち歩いているものの、あまりに誰も傘を差していないので、さしづらい。雨でもレインコートをきて、びしょ濡れになって学校に行くことも増えた。しかし雨さえやめば、乾燥していることもあり、すぐに乾いてしまう。
理由3……お肌にやさしい湿度がある
日本にいた頃、私は夏の湿気が苦手だった。しかし、ヨーロッパの乾燥した環境に慣れると、皮膚の乾燥から逃れるために、かつて嫌った湿度が恋しく感じられるようになった。
久しぶりに訪れたかつての職場で、「肌がツヤツヤ」と言われたのは、乾燥した環境から湿度が高い日本に戻った結果、肌が喜んでいた結果かもしれない。
7月のベルギーの湿度は平均すると45%で、東京は61%くらい。ベルギーは雨が多いので湿気も多い気がするが、実際は洗濯物や髪の毛がすぐに乾く。海外のホテルにいくとボディクリームが常備してあることが多いが、この乾燥を経験すると納得できる。
私も、日本ではベタベタが苦手で使うことが少なかったボディクリームが、こちらにきて手放せないものになった。
理由4……夏の冷房が心地よい
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ヨーロッパでは冷房がついているところのほうが少ないかもしれない。
古い建物を使っており、物理的につけられないということもあるが、例えばベルギーでは夏の平均温度が22度前後といわれており、冷房をつける必要がない。
しかし、近年温暖化などの影響もあり、とくに太陽の日差しが強い。そうなると、窓を開けて風を通したとしても、部屋のなかがかなり暑くなる。
東京ではすぐに暑ければ除湿や冷房をスイッチひとつでつけられたことを思うと、ベルギーはかなり寝苦しい。日によってはなかなか寝付けない時もある。しかも朝になったらそこそこ冷えていることも多いのでやっかいだ。
理由5……トイレが圧倒的に心地よい
「日本のトイレは世界一だ」と言われることもあるが、欧州に来て日本のトイレの素晴らしさを実感することが増えた。
特にベルギーの冬は日本よりも厳しく、便座の冷たさが身にしみる。その時に思い出すのが便座の暖かさと温水のウォシュレットだ。それはまるで私たちを包み込むような温もりで、冬の厳しさを緩和してくれる。
日本では公衆トイレでもきれいなことがおおく、かつウォシュレットだってついている。もちろん、ベルギーでも工事をすれば設置することは可能だそうだが、そこそこの値段がする。
ウォシュレットだけではない。硬いトイレットペーパーのせいか、何度もベルギーでトイレをつまらせた。
ベルギーで「トイレが詰まった」と訴えたら、素手をトイレにいれてトイレットペーパーを取り除いた勇者もいて仰天した。私はそんな勇気がなく、熱湯をなんどもトイレに流すなどしてなんとかつまりを解消している。
理由6……空気清浄機でどこでも清潔
日本はどこでも清潔なので安心できる。だからこそ日本の清潔さに慣れると、ヨーロッパでは驚くことが多い。
家の中の土足に始まり、大型犬が家のなかを走り回っており、毛が舞っていることは日常茶飯事だ。さらに、外出先から戻っても手洗い・うがいの習慣などないし、調理前にも石鹸で手を洗おうとすらしない。そもそも石鹸といったらボディソープしかないこともある。
子どもも同じで、動物を触った手をそのまま口にいれるのは当然だ。日本みたいに「手を洗いなさい」とはならない。日本のようにどこもかしこも「抗菌」ということはありえないし、空気清浄機もない。
しかし、思わぬ発見もあった。私はハウスダストや花粉、動物の毛などいくつかのアレルギーがあり欧州生活を始めて症状が悪化した。しかし、ベルギー滞在が1年半を超え、最近では少しずつ耐性がついてきた気がするのだ。清潔な空間で過ごすよりも、こうした生活のほうが強くなる面があるのかもしれない。
理由7……温泉・銭湯が多い
銭湯は素晴らしいリフレッシュになる。
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ベルギーに来て最も恋しかったのが温泉だった。
都内には温泉も銭湯も多く、わずか500円程度でその恵みに浸れる。肌はすべすべになり、わずか数10分間の温泉が、体と心を一新させてくれる。
ベルギーでは、価格が安い平日の朝を見計らって、車で20分の区民プールのような場所に、サウナとジャグジーをめがけて遊びに行くのがせいぜいだ。ここは値段が1人5ユーロ弱なので気に入っている。
ベルギー人にかぎらず西洋人の多くがそうかもしれないが、温泉どころか「風呂につかる」習慣がない。私はバスタブつきの家に住んでいるが、ベルギーでは珍しい。
冬には42度くらいの風呂に浸かるが、彼らには「なんて熱いお湯に浸かるんだ!」と叫ばれてしまう。
「便利さ」は不寛容につながる?
ベルギーと東京という全く違った環境を行き来することで、次第に私はそれぞれの良さとそれに紐づく文化や考え方の違いに気付くようになった。
最たるものは、東京という環境のなかで「ビジネスに最適化され、余裕をなくしていた」自分だった。便利さに慣れた結果、小さなことにイライラしやすくなっていた。
ベルギーでも、それなりに忙しい時間を過ごしてはいるが、花に水をやったり、友人とのんびり時間を気にせず会話をしたりする時間が残っている。
そして何より、電車のストライキやトイレが詰まるなど、思い通りにいかないことに慣れざるをえないので「怒ってもしょうがないよね」となるのだ。周囲がそうであるから、自分もその環境に影響されている面もあるかもしれない。
東京では基本的には何でも自分で解決できたが、ベルギーではそうはいかない。人に頼らざるを得ない。
しかし、何でも自分ひとりで完結していた東京の生活よりも、今のところ私は「人間らしい」ベルギーの生活も面白がって受け入れている。便利さによって失っているものに思いをはせてみるのも面白いかもしれない。